帰国後のビジネスを成功させるために、実習生にビジネスプランを作成してもらう取り組みをしていることを以前の記事(「ビジネスプランの10ステップ」)で紹介しました。今回は、その第3ステップについてお伝えしたいと思います。
第3ステップ=ビジネスアイディア
ビジネスプランの第3ステップは、「ビジネスアイディア」です。具体的には、実習生に以下のような作業をしてもらいます。
1. 実現したいアイディアをできる限りたくさん書き出す
2. 短期的・長期的に達成可能なアイディアに分ける
1. 実現したいアイディアをできる限りたくさん書き出す
2. 短期的・長期的に達成可能なアイディアに分ける
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実現したいアイディアをできる限りたくさん書き出す
まず、自分が「やりたいこと」や「好きなこと」を思いつく限りすべて書き出します。ここで重要なことは、「儲かること」よりも「やりたいこと」や「好きなこと」を重視することです。その方が、成功するまで情熱を注いで頑張れるからです。ビジネスのアイディアに加え、将来の夢や人生の計画も書き出します。
例)
・日本で農業を学びたい
・親のトウガラシ畑を手伝って大きくしたい
・自分で一から果樹園を作りたい
・畑と果樹園に併設してレストランを作りたい
・結婚したい
・村長になりたい
・サッカースタジアムを作りたい
など -
短期的・長期的に達成可能なアイディアに分ける(キャッシュフローを意識!)
次にこれらのアイディアを、どれくらいの期間があれば達成・実現できそうか、という観点で分けていきます。最も短期的に実現できそうなビジネスのアイディアが何かを自覚することが、このステップにおける重要なねらいの一つです。実習生は多くのアイディアを持っていますが、「まず最初に注力すべきなのはどれなのか」を明確にしておく必要があるからです。
それに加えて、「キャッシュフロー」を意識することが大切です。キャッシュフローとは「現金の流れ」です。帳簿上の利益がどうであろうと、手元に現金がなければ支払いができず、賃金を払うことも借金を返すこともできません。最悪の場合には黒字倒産してしまうこともあります。実習生は日本で稼いだお金を元手にビジネスを始めますが、そのお金は決して十分とは言えません。途中で運転資金が足りなくなるような事態にならないように、短期的にキャッシュ(現金)が得られるビジネスアイディアを優先して始める必要があります。例えば、果樹園を始めると仮定してみます。果樹の苗木を植え、農園を開くまでは比較的に短期間で実現可能ですが、果実を収穫し、現金化するまでには何年もかかってしまいます。その間の運転資金や生活費をきちんと別に準備しておければいいのですが、そこまで考えが及ばないのが現実です。
かつて弊社で受け入れたV君という実習生がいました。彼の地域ではもともと丁子栽培が盛んだったのですが、高速道路建設のために多くの丁子が伐採されてしまい、一時的に丁子の値段が高騰しました(丁子=ちょうじ、クローブ、香辛料や香料として利用される)。そこで、彼はビジネスプランとして丁子栽培を採用し、実習生として日本にいる時から地元の土地を買って丁子農園への先行投資を始めました。彼が実習を終えて帰国する頃には結構な広さの土地に丁子を植えることができました。丁子は苗木を植えてから4~5年後に収穫が始まり、11年後に収穫最盛期を迎えるという作物です。丁子の収穫が始まるまでは他の農作物を売って生計を立てる計画でしたが、土地と丁子の苗にほとんどの資金を使ってしまいました。そのため、他の農作物に充てる資金が足りず、計画通りには売上が伸びません。地元で結婚して子供が生まれましたが、家計はかなり苦しい状況でした。子供に持病があり、医療費が嵩んだことも影響しました。結局、丁子の収穫を待つことができなくなり、投資した丁子農園を二束三文で手放すことになってしまいました。
彼が日本で立てたプランでは帰国して11年後には最盛期を迎えた丁子の売上で大金持ちになる予定でしたが、キャッシュフローに目を向けなかったために、それは実現しませんでした。
第3ステップは、実現したいアイディアを書き出すことが主な目的なので、利益やキャッシュフローを詳しく考える項目はありません。しかし、「それぞれのビジネスアイディアがどれくらいの期間でキャッシュを生み出すのか」を考慮するように指導しています。