帰国後のビジネスを成功させるために、実習生にビジネスプランを作成してもらう取り組みをしていることを以前の記事(「ビジネスプランの10ステップ」)で紹介しました。今回は、その第2ステップについてお伝えしたいと思います。
第2ステップ=家族のビジネス調査
ビジネスプランの第2ステップは、「家族のビジネス調査」です。実習生の多くは若く、ビジネスの経験がほとんどありませんが、親や親族のビジネスを調査することで、その経験値を自分のビジネスを組み立てる際に役立てることができます。また、親や親族のビジネスを投資先として考え、その事業を発展させることも視野にいれることができます。このような選択肢を増やすことも、第2ステップの目的になります。さらに、親への送金金額の妥当性を見直すことも目的の一つです。
親族への送金金額の妥当性を見直す
実習生の多くは、日本で稼いだお金を親や親族に送金しています。多額の収入を得る場合、その一部を親へ仕送りをするのはインドネシアでは至極一般的なことで、その常識に沿って実習生も当たり前のように送金しています。
ただ一つ問題があります。それは、実習生が送金しているお金は、日本にいる間だけ得られる期限付きの収入だという事です。仕事で成功して多額の収入を得る場合とは違い、実習生が得るお金は、いわゆる南北問題という日本とインドネシアの経済格差から生まれるお金です。実習期間が終了すれば、その収入は絶たれます。「日本に来ている間だけでも親や親族を援助したい」という気持ちはよくわかりますが、それが悲劇につながるケースがあります。仕送り額が多すぎると、親や親族が生活の質を上げてしまい、仕送りが無くなるのと同時に生活に困窮する場合があるのです。
Pさん(仮名)のケース
弊社で受けいれた実習生の実話です。Pさんは、とても親思いの方でした。実家は土地なし農民で、近所の農家で日雇いの農業労働をしていました。
貧しいながらもチャンスをつかんで来日したPさんは、稼いだお金のほぼ全てを親に送金しました。多額の仕送りに、Pさんの親は、周囲に「息子は成功した!」と大喜びで言い回ったそうです。そして自分は低賃金の日雇い農業労働を辞めて、息子からの仕送りだけで暮らすようになり、次第に贅沢な暮らしを始めました。
実習を終えてインドネシアに戻ると、Pさんが送金したお金はほとんど生活費や贅沢品(バイクや家電等)に消費され、全く残っていませんでした。Pさんは、送金の一部は親が使うだろうと考えていましたが、基本的には貯金目的で親元に送金していました。しかし、それが全額使われていたことが分かって愕然としました。さらに悪いことに、Pさんが帰国しても親の贅沢な暮らしは止まりませんでした。
Pさんの親は、もう実習生として日本にいた時のような収入がないPさんにお金の無心を続け、Pさんを悩ませました。何度も働くように親を説得したそうですが、一度覚えてしまった贅沢な生活を変えることはできませんでした。
その後、Pさんはインドネシアでなんとか定職に就くことができましたが、自分の生活で精一杯の収入で、とても親への送金はできませんでした。それでも親はPさんにお金の無心を続け、最後にはPさんは親と縁を切り、親は多額の借金を抱えて破産したそうです。親孝行のつもりが、取り返しのつかないことになってしまったケースです。
Pさんほどではないですが、同様のトラブルの話はよく聞きます。第2ステップを通して、親や親族の収入がどれくらいあるのかを知ることができます。現状で十分生活が成り立っていることが分かれば、多額の送金は控えるべきです。私はこのステップの授業をする時には、Pさんの事例を紹介して実習生たちの送金金額が妥当であるかどうかを問うようにしています。
親や親族の資産を利用する
このステップでは、親や親族のビジネスの内情を分析します。この過程で、実習生は親や親族の持つ設備や資産を理解します。実習生が日本で稼ぐお金は、インドネシアでは大きな価値となりますが、それでも起業するにはかなり心もとない金額です。親や親族の設備や資産を利用することができれば、起業における資金不足のリスクを大きく減らすことができます。
親や親族のビジネスに投資する
また、親や親族のビジネスに参加し、そのボトルネックを解決するための投資ができれば、かなり効果的な場合もあります。その事業を継承して、日本での知見を活かした新しいサービスを付帯することで、「第二創業」としてさらにビジネスを発展させることも可能となります。この場合、自分でゼロからビジネスを始めるよりも成功の可能性が高くなることは言うまでもありません。
「自分のアクセスできる資源は何か」を考えるために第2ステップはとても重要です。