帰国後のビジネスを成功させるために、実習生にビジネスプランを作成してもらう取り組みをしていることを以前の記事(「ビジネスプランの10ステップ」)で紹介しました。今回は、その第1ステップについてお伝えしたいと思います。
第1ステップ=金融リテラシー
ビジネスプランの第1ステップは「金融リテラシー」をテーマにしています。金融リテラシーとは、お金に関する知識や判断力のことで、簡単にいうと「賢くお金を使う能力」とも言えます。
なぜ金融リテラシー?
では、なぜ第1ステップに金融リテラシーを学ぶのでしょうか?それは、これまで多くの実習生を見てきた経験から、私自身が切実にその必要性を感じているからです。
実習生たちは日本での仕事で自国にいたときより比較的高い給与を得ることになります。(インドネシアの地方の工場労働者の給与は月3万円程度。)今まで手に入れたことのないほどのお金は大きなインパクトとなり、実習生やその家族の金銭感覚を狂わせてしまいます。欲望をうまくコントロールできないと、大きなお金を得ることで逆に破産してしまうケースもあります。親兄弟だけでなく、かなり遠い親戚からお金の無心をされることもあり、親友だと思っていた人からしつこく金銭の無心をされた結果、関係がこじれてしまったというのはよく聞く話です。
日本で得たお金を使い切ってしまっても、日本での経験を活かしてインドネシアで良い仕事に就ければいいのですが、現実はそんなに甘くありません。実習経験者は自分を成功者として捉えているので、謙虚さに欠け、仕事に不可欠な下積みやトレーニングを嫌う傾向があり、雇用主としてはそのような人材は採用したくありません。結果、生活するための仕事もなく、再び特定技能などで日本を目指すといった循環が一部で生まれています。これではいくら日本に出稼ぎに来ても、将来は明るくありません。
日本で得たお金を使って、実習生たちが帰国後に自分のビジネスを成功させる。それを見た有能な人材が新たに日本に実習生としてやってくる。私はそんな循環を作りたいと思っています。
では第1ステップで具体的に何をする?
第1ステップでは、自分の財務状況をよく理解して、帰国後のビジネスに投資できる金額の全体像を把握することが学習目標となります。
具体的には、現在手元にある資産と負債の点検、そして帰国するまでの収入と支出の計算をしてもらいます。実習生として日本にいる間に得られるであろう収入、毎月の生活費や遊興費、家族への仕送り、日本でやりたいこと、帰国後に購入したいもの、、、など考えられるもの全てを書き出すと、帰国後に自分のビジネスに投資できる金額(=総収入ー総支出)が見えてきます。
実習生の中には収入以上に欲しいものがあることに気づく人もいます。計画なく日本で過ごしてしまうと、帰る頃には全くお金が残らなかった、ということにもなりかねません。
帰国後のお金の使い方にも注意が必要です。これまでの傾向として、多くの実習生は帰国後に次のようなことにお金を使いたいと考えていました。
①高性能バイク購入(カワサキのNinjaが人気)
②家(新築&リノベーション)
③盛大な結婚式の資金
④聖地メッカ巡礼(イスラム教徒の方のみ)
⑤iPhoneなどの最新の家電製品
本当にこれらにお金を使ってしまっていいのか?自分のビジネスへの投資にお金を回すべきではないのか?第1ステップを通して、実習生にはしっかりとお金の使い道を見直して欲しいと思っています。
自分が得るであろうお金を事前にきちんと理解し、それを本当に必要なものに使うことこそが成功への道です。収入と支出を見える化して、不要な支出がないか再考してもらうことがこの第1ステップでの重要な学習ポイントになります。その上で、手元に残ったお金をビジネスへの資金として投資を促していくことが大切です。ビジネスの規模はこの投資金の総額で決まるため、規模を大きくしたいのであれば、欲しい物などの支出を抑える行動が必要になります。第1ステップはこのことに気づくことができる仕組みになっています。
ビジネスプランの第1ステップは来日前に
実習生として日本へ行くかどうかを判断するために、この第1ステップは来日前にするのが良いと思います。もしかしたら、期待していたよりも手元に残るお金が少ない、ということもあるかもしれません。「実習生がどれくらいお金と時間をつかって来日するか知っていますか?」の記事でも書いたように高額の借金をして日本に来る実習生もいますが、日本に行っても将来が明るくないと分かれば、来日を断念する選択をすることもできます。彼ら彼女らの大事な人生を無駄にせずに済みますし、長い目で見ると、高額な請求をする仲介業者が淘汰されることにも繋がります。