「お金の貸し借り、どうしていますか?」のエントリーでもご紹介した通り、来日直後から「お金を借りたい」と申し出る実習生がいます。
「お金の貸し借り、どうしていますか?」
この主な要因は、多くの実習生が来日前に借金を背負ってしまうことにあるようです。では一体なぜ借金を背負ってしまうのか?彼等彼女等がどのようにして日本にやってくるのか?
弊社での聴き取りの範囲ではありますが、この記事でご紹介したいと思います。
インドネシアでは、高校や大学卒業後の進路の一つとして、技能実習生を考える若者は少なくありません。「海外出稼ぎ」は身近な選択で、中東やシンガポールに家政婦として出稼ぎに行く方もたくさんいます。私が青年海外協力隊時代(1997-2000年)にお世話になった南スラウェシ州では、マレーシアの森で木材の切り出しをする出稼ぎが若者の間で流行っていました。マグロ船などの長期の遠洋漁業船に乗る方も多いです。海外の港町でインドネシアの若者に出会うこともよくあります。海外で仕事をすることを自然な選択として捉えている若者は、日本よりもたくさんいると思います。
ただ、技能実習生を目指す若者は、すぐに来日できるわけではありません。
技能実習生として日本に行くには、民間の場合は「送り出し機関」に入学しないといけません。送り出し機関はいわゆる職業訓練校のようなもので、必要な日本語や生活・習慣を学びます。送り出し機関に入るには、6か月程度の日本語学習経験が求められます。そのため、多くの若者は、まず日本語学校に通うことになります。
日本語学校に通いながら、送り出し機関の受験をします。受験のチャンスは年に数回ありますが、すぐに合格できるケースは稀で、通常は複数回受験することになります。
日本語学校の学費は寮費込みで、1年間でおよそ5万円。食費を入れると出費は1年間で10万円以上になります。
送り出し機関に合格すると、今度は授業料がかかります。それぞれのケースで差異はありますが、来日するまでの授業料はだいたい20~30万円くらいになるそうです。
送り出し機関に在籍しながら日本企業の求人に応募するのですが、通常は採用が決まるまでに1年から1年半程度かかります。
日本語学校と送り出し機関の両方を考慮すると、来日まで早くて1年半、長いと2年半以上かかることになります。必要な支払いは多い方で、40万円ほどになります。
インドネシアの都市部では随分と高額のサラリーを得る方も増え、外資系金融機関だと日本と変わらない方もいます(というか日本よりも高給です!)。ただ一般的には、インドネシアの給与水準はまだかなり低いです。農村部では特に低く、高校新卒で工場勤務の場合、月収2~3万円くらいになります。
そんな給与水準の方が、30~40万円の授業料をポンと払うのは不可能に近く、多くの方が借金をすることになります。インドネシア政府も海外で働く人のための融資を用意していますが、それでも年利6%ほどで、借りた翌月から返済が始まります。据え置き期間はありません。来日するまでに2年半かかる方もいますし、この融資を受ける条件(書類や担保など)の審査も厳しいため、融資を受けて日本に行こうという方は少ないです。大半のケースでは、親族からお金を借りたり、村の高利貸しから借りたりしています。いずれにしても、かなり高い利子を要求されることになります。
弊社で受け入れた実習生から聞いた話では、高利貸しから40万円ほど借りて、来日後2年以内に利子を含めて60万円返済することになったケースがありました。
いざ日本に行くとなっても、パスポート取得やビザ取得で3万円ほどかかりますし、出国準備等でも数万円かかります。そのため日本に来るまでに借金は30~50万円程度かかります。長い方で2年半ほどの準備を経て、30~50万円の借金を年利6%以上で借りてくるのが技能実習生なので
(高利貸しの場合は、返済額は1.5倍になるケースもあります)。そしてそれは特に虐げられているわけでもなく、インドネシアの常識と法律と慣習の範囲で普通に行われています。
これらを考慮して、実習生に対する支援をしてくださいと言いたいわけではありません。
人は自分の常識というモノサシで、社会のあらゆる事象を測り対処しています。実習生の場合、彼等彼女等の国の常識に従って日本に来る準備をしています。そして、当たり前のように借金を背負ってしまいます。そういう世界が我々の知らないところで存在するのだと、知ってほしいのです。
私からすると、そこまでして本当にそれに見合う経験と対価を得られているのだろうか、と不安に思うこともあります。このサマサマ手帳では「実習生が日本で活躍できるようにするために私たちに出来ること」を皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。